研究概要 |
種子生産の経年的地域比較:シイ類,クスノキについて伊豆半島と房総半島で種子生産量,種子の形質を3年間比較調査した。散布種子数の多少の傾向は伊豆,房総とも一致しているが,両樹種とも伊豆は房総より散布健全種子数が多く,胸高直径が同じなら伊豆は房総より散布健全種子数が多かった。また,伊豆は房総より種子散布時期が遅かった。これらの原因は何に起因するかについては,気象条件等を含めた今後の継続した調査が必要である。 シイ類落下種子の動態:伊豆半島のシイ類が優占する約70年生二次林においてシイ類の散布種子数,翌春まで土中に残る健全種子数,散布翌年10月の林床における芽生え・稚樹数を調査し,落下種子の動態を明らかにした。その結果,散布健全種子の0〜27%が春まで土中に残り,0〜1.2%が芽生えて10月まで生存することが明らかとなった。10月時点で実生由来のシイ類稚樹は0.8〜4.7本/m^2確認できたが,樹高20cmを超えるものは確認されず,暗い林床においては芽生えた稚樹は数年しか生存できないことが示唆された。 暖帯常緑広葉樹二次林における林床稚樹の動態:伊豆半島のシイ類が優占する約45年生二次林において林床稚樹群の動態を3年間追跡調査した。その結果,シイ類,アオキ,イヌガシを中心にして23〜33種が林床に生存し、1.5m未満の稚樹は2.3〜4.0本/m^2であった。実生由来の稚樹は経年的に減少するが,芽生えは種子の供給量に応じて増減を繰り返し林床における稚樹群はダイナミックに増減を繰り返していた。なお,シイ類には被圧された個体からの萌芽も稚樹群として多く認められた。 クスノキ林におけるクスノキ稚樹の成長阻害:クスノキ林においてクスノキ稚樹に成長阻害作用が確認されている。その原因を究明するためクスノキ,シロダモを用いて実験を行った。その結果,クスノキ林内においては培地に関係なくクスノキ稚樹に新芽が黒変壊死する現象が認められ,シロダモには認められなかった。一方,苗畑におけるショウノウ噴霧実験においてはクスノキに黒変壊死現象は認められなかった。今後,クスノキ林冠からもたらされる忌避物質説と特有の病害説について検証していく必要がある。
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