研究概要 |
本研究では、暖帯域にある伊豆半島南部の常緑広葉樹林において,現在の主林木を構成する樹種がどのような更新過程を経てその個体群を維持していくのかを明らかにする目的で,シイ類(スダジイ,コジイおよびその中間的形態を示す個体を含む)とクスノキを中心に種子から稚樹までを対象に消長や成長を観察し,実験的手法によってそれぞれの段階における環境応答を調べ,以下のことを明らかにした。 1.約80年生クスノキ人工林と約45年生のシイ類が優占する二次林ともそれぞれの樹種の後継樹に乏しかった。 2.クスノキとシイ類とも,継続的に相当量の種子が林床に散布されていた。 3.クスノキ,シイ類とも,林床では実生由来の稚樹は数年しか生存できなかった。クスノキでは芽の壊死が,シイ類では光不足が枯死原因と考えられた。 4.クスノキがギャップ形成に応答する発芽特性をもつことを明らかにした。 5.陽性の落葉広葉樹に比べて常緑広葉樹は,発芽までに時間がかかり,初期成長も遅いことを栽培実験で明らかにした。 以上の結果から,シイ類が優占する二次林は、林冠が鬱閉し林床は非常に暗く,多くの実生は数年で枯死し,また,ギャップが形成されても,短時間で後生の成長の早い落葉広葉樹によって埋められてしまうため,シイ類の前生稚樹が後継樹となるには、何度かのギャップ形成が必要と考えられた。また,クスノキは,ギャップ形成に応答して発芽する性質があり,また,クスノキ林下では特異的に発生する芽の壊死によって稚樹の生育が阻害されることから,クスノキの後継樹群が形成されるためには大きなギャップの形成が必要と考えられた。
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