研究概要 |
餌資源量の異なる2調査区(スギ区,カラマツ区)における昆虫食性鳥類,シジュウカラ(Parus major),ヤマガラ(P. varius)の繁殖密度と繁殖特性は,他の自然生息地における記録に匹敵しており,繁殖成功率は,シジュウカラで99.0%,ヤマガラで88.3%と高かった.調査区間の鱗翅目・膜翅目幼虫資源量の違いにもかかわらず,カラ類2種の繁殖つがい数,一腹卵数,繁殖成功率には調査区間で差がなく,育雛期間の長さにおいてのみ差が認められた.カラ類の繁殖時期は,落葉広葉樹における鱗翅目・膜翅目幼虫資源の発生消長と同調していたが,針葉樹における幼虫資源の発生消長との同調性は認められなかった. 針葉樹人工林におけるカラ類2種の給餌生態を,育雛餌の「種構成」と「餌供給量」の2点から明らかにし,針葉樹人工林における給餌生態を他の生息地における報告と比較した.育雛餌の種構成は,鳥種間,調査区間で異なっていた.シジュウカラの育雛餌は,他の生息地における記録とは大きく異なっており,スギ区においては直翅目(61-73%)を,カラマツ区においては鱗翅目・膜翅目幼虫(46-63%)をもっとも主要な育雛餌として利用していた.一方,ヤマガラは,いずれの調査区においても鱗翅目・膜翅目幼虫をもっとも主要な育雛餌(69-91%)として利用していた.餌動物の種構成比と体サイズ分布は,採餌場所間で異なっていた.落葉広葉樹樹冠部や下層植生には,幅広い体サイズの鱗翅目・膜翅目幼虫が生息しており,カラ類2種ともに利用可能な餌資源の供給源と考えられた.スギ樹冠部には,大型の直翅目が生息することから,大型の食餌動物を選好するシジュウカラにとって有効な採餌場所であると考えられた.カラマツ樹冠部には鱗翅目・膜翅目幼虫は多いものの,小型の個体が大部分を占めるため,カラ類の採餌場所としての利用可能性は落葉広葉樹と比較して低いものと考えられた.
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