研究概要 |
森林山腹斜面における土壌呼吸量の斜面分布と地温および土壌水分の斜面分布との関係について観測結果と土壌呼吸量の推定モデルをもとに検討した. 観測を行ったのは,島根県中部丘陵山地の0次谷最上部の尾根を含む小集水域である(比高約30m). 植生は天然生落葉広葉樹二次林である.観測点は谷線に沿って,集水域末端と尾根部そしてその中間に合計4点設けた.観測期間における地温と土壌水分は,夏季では高温乾燥,冬季では低温湿潤という状態であった. 土壌呼吸量は,斜面全体の土壌が乾燥している場合,尾根部の土壌呼吸量が,これより下部位置での土壌呼吸量に対して極端に小さくなった.土壌水分が斜面全体で比較的多い場合,土壌呼吸量の斜面位置による顕著な差が見られなくなった.土壌呼吸量は地温の指数関数式のみでは,季節変化程度しか再現できず,季節内の10日間程度の変動は再現できなかった.これに,土壌水分張力を用いた水分ストレス関数を組み込むことで季節内変動にかなりの再現性が得られるようになった.この土壌水分ストレス関数は,土壌の乾燥に伴いストレス関数値が指数関数的に減少する(土壌呼吸量が減少する)関係であらわされた.地温や土壌水分張力に対するパラメータも斜面位置により異なった.土壌水分張力から算出されるストレス関数値の経時変化は,実測データから得られた関数値の経時変化をほぼ再現していた.しかし,土壌が低温で湿潤な場合,十分な再現性は得られなかった. 地温と土壌水分張力の斜面分布を用いたモデルシミュレーションにより,土壌呼吸量の斜面分布を形成する要因を検討した.その結果,土壌呼吸量の斜面分布は,地温に対する敏感度をあらわすパラメータ,土壌水分張力とそれに対する敏感度を表すパラメータの斜面分布の影響を強く受けていた.
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