研究概要 |
本年度は,寄主木の条件とキバチ類の共生菌の定着との関係について,新たな知見が得られた。共生菌を持つキバチ類の一種であるニホンキバチの幼虫は,生立木では生育できず,倒木においても,伐倒されてから長期間経過すると他の腐朽菌が定着してしまうため,共生菌が定着できず,幼虫も成育できないと考えられてきた。しかし,本年度の研究によって,生立木にニホンキバチが産卵した場合,幼虫は成育できないが,産卵時に接種された共生菌は定着しており,それらの木では,伐倒後も長期間,共生菌は定着しつづけることが明らかになった。これらのことから,生立木時に共生菌が接種された木は,それが伐倒された場合,伐倒後かなりの期間,ニホンキバチにとって有効な餌資源となる可能性が示唆された(堀ら,印刷中)。 さらに,本年度は,日本産キバチ亜科の系統関係を解明するため,DNA分析用のサンプル収集を行い,これまで中心に研究を行ってきた,ニホンキバチ,ニトベキバチ,オナガキバチに加えて,ヒゲジロキバチ,コルリキバチ,トドマツノキバチ成虫のアルコール標本を得ることができた。来年度以降,これらのサンプルのDNA分析を行っていく予定である。 共生菌を持たないオナガキバチについては,本年度の調査によって,これまで採集されてきたものとは異なる系統(エコタイプ)(触覚の先が白く,産卵管が極めて長いタイプ)が存在することが明らかになった。来年度以降,オナガキバチに認められた2系統の生態的違いについて検討していく予定である。 その他,キバチ類の資源利用様式についての成果の一部を図書として公表し(二井・肘井編,2000),キバチ類による森林被害の防除対策についての総説も公表した(福田・前藤,印刷中)。
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