研究概要 |
1.MnP-脂質過酸化複合系によるパルプ漂白条件の至適化と白色度上昇 未晒しクラフトパルプ(UKP)のMnP漂白を脂質(オレイン酸,リノール酸,リノレン酸)存在下で行った。その結果,白色度の上昇効果は,脂質無添加(MnPのみ)>オレイン酸添加>リノール酸添加>リノレン酸添加の順となり,この順位は反応系内で発生した過酸化物価とよく一致した。このことから,不飽和度の高い脂肪酸ほど,MnPによる過酸化反応を受けやすく,活性なフリーラジカルの生成も多いことが確認された。さらに,白色化効果の最も高かったリノレン酸を用いて添加濃度による白色化の影響を調査した結果,検討した範囲内ではリノレン酸3mMで最も高い白色度効果が得られ,24時間の処理において,脂質無添加で約8ポイントの白色度上昇が得られたのに対し,3mMリノレン酸共存下では,2倍以上の約20ポイント白色度上昇を得ることが可能となった。 2.MnP-脂質過酸化複合系による環境汚染物質分解の至適条件と反応機構 アントラセン(AT)をモデル物質として種々の分解条件(MnPおよび脂質添加量,脂質の種類)を検討した。MnP-脂質過酸化複合系による,ATの分解速度は非常に速く,MnP添加量0.01〜0.1mU/mlの範囲で分解速度はほとんど影響を受けなかった。また,リノレン酸濃度(1〜3mM)や脂質の種類(リノレン酸およびそのメチルエステル)はATの分解速度に影響しなかった。次いで,MnP-脂質過酸化複合系による分解反応機構を検討した結果,MnPによる脂質過酸化と活性フリーラジカルの生成はATの酸化に比べてきわめて速い反応であること,また脂質からフリーラジカルの生成は過酸化物中間体を経由する2段階の反応で進行することが明らかとなり,MnP-脂質過酸化複合系を環境汚染物質の分解に応用する際の基礎的知見を得ることができた。
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