本研究では、マンガンペルオキシダーゼ(MnP)反応系に不飽和脂肪酸を共存させるMnP-脂質過酸化複合系系をパルプ残留リグニンの分解および環境汚染物質の分解に応用するための基礎的知見を得るために検討を行った。 1.MnPによるパルプ漂白の際に不飽和脂肪酸を共存させるとパルプ白色化が促進された。白色化促進効果と反応系内の過酸化物価(POV)には良い相関が認められた。一方、不飽和脂肪酸の過酸化を触媒するリポキシダーゼを用いてパルプ漂白を行ったが、白色化促進は観察されなかった。この結果より、パルプ残留リグニンの分解には不飽和脂肪酸の過酸化とMnP反応によって生成するMn(III)の両者が必要と考えられる。さらに、不飽和脂胞酸の過酸化にはMn(III)に加えてパルプ中の残留リグニンも関与していることが明らかとなった。 2.多環式芳香族炭化水素類(PAH)のMnP-脂質過酸化複合系による分解に関する知見を得ることを目的とし、アントラセン(AT)をモデル物質として検討を行った。不飽和脂肪酸存在下でATをMnP処理すると、ATの酸化が大きく促進された。MnP-脂質過酸化複合系において、脂質の過酸化速度はATの酸化速度に比べて速いことが明らかとなった。脂質の過酸化反応には、過酸化による過酸化物中間体の生成と、中間体からのフリーラジカル生成の2段階の反応が存在し、前者の反応が速いことが示唆された。MnP-脂質過酸化複合系において脂質およびPAHの種類は反応速度に大きな影響与えないことから、広範囲な不飽和脂肪酸が応用可能であると期待された。 3.MnP-脂質過酸化複合系を用いてビスフェノールAとノニルフェノールのエストロゲン様活性除去を試みた。6〜12時間の処理により両化合物のエストロゲン様活性はほぼ完全に消失する事が明らかとなった。
|