本研究では、心材成分の生合成の制御に関する基礎的知見を得るため、心材リグナンおよびノルリグナンの生合成機構について検討し、以下の結果を得た。 まず、ヒノキ心材リグナン(ヒノキニン)の生合成前駆体の精査を行い、新規リグナン1種とヒノキニンの生合成前駆体(構造既知リグナン)7種、およびヒノキニンの代謝物と考えられる2種のリグナンを単離・検出した。さらに、重水素標識体を用いたフィーディング実験により、ヒノキにおけるリグナン合成経路の概略を解明した。また、もうひとつの代表的心材リグナン(ヤテイン)の生合成経路を、シャクおよびイエローフラックスを用い、競合フィーディング実験によって決定した。なお、本実験方法は、近年特に重要になっているメタボローム解析に極めて有用であることも示された。 次いで、心材リグナン生成反応の解析を行うため、モデル系(ジンチョウゲ懸濁培養細胞、ゴボウ、イエローフラックスとシャク)を確立し、これらのモデル系を用いて、リグナン生合成経路上の上流部の立体化学について検討した。その結果、種々の植物種におけるリグナン生合成の立体化学が極めて多様であることが示された。 また、本研究で初めて、ノルリグナンが2種の異なるフェニルプロパノイドモノマー(p-クマリルアルコールとp-クマロイルCoA)のカップリングに由来することを見い出した。そして、この反応を触媒する酵素活性を初めて見い出した。現在この酵素の生成、cDNAクローニングを行っている。 最後に、心材リグナン生成モデル植物(ベニバナ)のcDNAライブラリーをスクリーニングすることにより、リグナン合成に関わる種々のOMTのcDNAクローニングを継続中ある。既に、数種のOMT cDNAのクローニングを行い、現在組換え酵素を用いた酵素機能の解析を行っている。
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