研究概要 |
きのこ類におけるトレハロースは主要転流炭水化物として,また低分子の貯蔵糖として子実体形成に重要な役割を持つ.さらに低温や乾燥に対するストレスの保護物質として作用することも報告されているが,その詳細は今なお不明である.そこで,生産量の最も多いシイタケを中心にこれらの点の解明を試みた.液体の合成培地でシイタケの子実体を形成させ,生育に伴うトレハラーゼ(Thase)およびトレハロースホスホリラーゼ(Tpase)活性を調べた.得られた結果とコロニー各部位のトレハロースとグルコースの量的変動からThaseは主に子実体の成長に,Tpaseは栄養菌糸の生育に強く関わっていることが推察された.培養液と栄養菌糸のThaseは電気泳動的に均一な蛋白バンドとして分取した.きのこ起源のThaseの精製は今回が最初であるが,これらの酵素は酸性Thaseで二量体,糖蛋白質であった.Tpaseについては未精製であるが,エノキタケを用いた検討ではトレハロースはグリコーゲンから作られ,本菌の場合Tpaseの作用は活発で,Thaseは殆ど機能していないことが明らかになった.また,ヒラタケではトレハロースやグリコーゲンの代謝に重要なホスホグルコムターゼの活性がトレハロースによって調節されている事実をつきとめ,本糖が子実体成長のキー物質であることが推察される結果を得た.一方,シイタケを初めとする数種のきのこをトレハロース添加培地で培養すると菌糸中のトレハロースが顕著に増加し,低温や乾燥などのストレスに対して耐性を示す結果を得た.現在,担子菌の菌株保存への応用を検討中である.さらに,シイタケの菌床栽培時にトレハロースを培地に加えて培養すると子実体収量が著しく増加し,収穫し,保存してもひだ部が褐変しないことを認めた.応用に興味が持たれるためこの点の検討を精力的に進めている.
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