研究概要 |
今年度はゼラチン質動物プランクトンの経年変動を物理・生物的環境要因との関連で調べた。とくに、亜寒帯太平洋では甲殻類動物プランクトンに比べて、極めて知見の少ないサルパ類・ウミタル類に焦点をあてた。試料は1982年〜1996年の6月上旬〜中旬に最大37°Nから57°Nの範囲にわたって北太平洋子午線上において採集されたNORPACネット(口径45cm,目合0.33mm;0〜150m鉛直曳)標本を用いた。 調査期間中、亜熱帯海流系と移行領域の境界の位置には大きな変動はみられなかったが、亜寒帯境界の位置は1982年から1987年および1992年から1996年にかけて南に移動し、移行領域幅が南に拡大する傾向がみられた。一方、1987年から1992年にかけて亜寒帯境界の位置は北上し、移行領域幅は北に縮小する傾向がみられた。調査域全体でウミタル類は3属3種、サルパ類は3属4種が出現し、亜熱帯海流系を中心に分布するグループ(Dolioletta toritonis, Doliolum nationalis, Doliolina undulata, Thalia democraticaおよびSalpa fusiformis)と北部移行領域を中心に分布するグループ(Salpa asperaとCyclosalpa bakeri)に大別できた。このうち、D. toritonis, T. democraticaおよびS. asperaは水温が高い年に出現個体数が多くなる傾向がみられた。 亜寒帯海流系におけるクロロフィルa濃度は、D. toritonisおよびT.democraticaの個体数が多いほど少なくなる傾向がみられ、両種が植物プランクトン群集にトップダウン効果を与えているように思われた。しかしながら、サルパ-ウミタル群集の個体数の年変動と物理環境要因の年変動とのあいだに密接な関係は見いだせなかった。
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