1.日本周辺海域に生息する4つの系群の属する各個体群の繁殖生態を比較した。相模湾、若狭湾、大阪湾の内湾域の本種の産卵活動はいずれも水温約15℃以上という外的環境の制限を受けていた。そしてその水温範囲内で海域の餌環境を反映する栄養状態によって産卵期が異なっていた。成熟体長は相模湾、若狭湾、大阪湾でそれぞれ5.9cm、8.5cm、7.4cmであり、海域間で変異性を示した。一方、本州東方沖合域の本種では産卵水温は15℃よりもかなり低水温下でも産卵を行っていた。また成熟体長も10cmと大きく、内湾域よりもより大きく成長してから成熟することがわかった。産卵数と産卵頻度はいずれの個体群でも水温と正の相関があった。しかし本州東方沖合域ではより低水温で内湾域と同等の産卵能力を示した。このように各個体群はその海域の環境に応じた異なる産卵生態を持つことが明らかになった。 2.北海道から九州までの太平洋側と日本海側、計6地点からの成魚の耳石微細輪紋を電顕によって調べた。艀化後60日くらいまでの耳石日周輪からみて初期成長には海域による差があった。南の海域で高く、北の海域で低い傾向にあった。さらに、各地の標本について、12の部位を計測し、外部形態を比較した。その結果、瀬戸内海と日本海で7部位に差があり、次いで、東シナ海と北海道沖で4部位に差があった。地理的距離の大きさに伴って形態に差が見られる傾向があった。このように、発生海域と分布域を異にするいくつかのローカル群の存在が示唆された。 3.安定同位体比δ15N、δ13Cを本州東方沖合域と若狭湾の標本について比較した。前者5-6月の標本ではδ15Nが7-10‰、δ13Cが-21.5--16‰であり、若狭湾における周年の値の範囲は、δ15Nで9-12‰、δ13Cで-19--16‰であった。標本による変動が大きいが、全体的には両海域で異なる傾向を示した。しかし、安定同位体比を環境履歴の指標として系群判別に用いるには変動が大きすぎると判断される。
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