研究概要 |
ウミメダカやティラピアなどの広塩性魚は、同一の個体が淡水、海水の双方に適応する能力を有している。一般に、海水中では体内に過剰となる塩類を鰓の塩類細胞から排出し、淡水中で不足するNa、Cl、Caなどのイオンを塩類細胞から取込むことで、いずれの環境でも体内のイオン濃度を生理的範囲内に保っている。本年度は、魚類が様々なイオン環境に適応する際の生理学的機構を、ウミメダカを実験材料に用いて調べた。 ウミメダカ成魚を海水および淡水に1か明間馴致した。鰓および鰓蓋膜の塩類細胞をFITCで標識したNa^+,K^+-ATPase抗体を用いて免疫染色し、レーザースキャン顕微鏡で巨視的観察を行った。その結果、鰓および鰓蓋膜の塩類細胞は海水群よりも淡水群で大きく発達していた。さらに、鰓の塩類細胞の微細構造を透過型電子顕微鏡および走査型電子顕微鏡で観察したところ、海水中では環境水に接する塩類細胞の頂端部が陥入しピットを形成していたのに対し、淡水中では頂端部がピットを形成せず、微絨毛が発達し表面積が著しく増大していた。また、微絨毛の周辺には数多くの小胞が観察された。一方、Na^+,K^+-ATPase活性および酸素消費量に淡水、海水両群間で差が認められず、淡水中でも海水中と同程度にエネルギーを消費して体液浸透圧が調節されていることが示唆された。これまで塩類細胞は、海水中で大きく発達し体内に過剰となる塩分を排出するという捉え方が一般的であったが、本研究の結果は塩類細胞の淡水中におけるイオンの取込みを示唆するものである。
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