本年度は魚類の網膜桿体細胞の増殖機構に関する免疫細胞化学的研究を中心に研究を進め、研究成果は次の2つの項目に要約される。 1.ニホンウナギの網膜における桿体細泡の増殖機構解明 ニホンウナギのふ化仔魚およびレプトケファルス幼生の網膜では桿体細包が極あて迅速に発達することを既に論文にしているので、今回はシラスウナギ、淡水ウナギおよび降りウナギの網膜桿体細包の増殖機構について組織学的並びに免疫細胞化学的に比較し解析した。1)錐体細胞が外境界膜付近に一列に並ぶのに対し、外顆粒層を占める桿体綱包の核およびその外節がウナギの成長および加齢に伴って顕著に増加する。2)淡水ウナギではPCNA(増殖細胞核抗原)抗体に対する免疫陽性細胞が外顆粒層のみならず内顆粒層にも多数みられ、桿体前駆細胞が内顆粒層から派生している可能性が高い。本結果より、ニホンウナギの生涯にわたって網膜桿体細胞は増殖し続け明暗感覚の感度を高めて、その夜行性の摂餌行動や暗い生息環境に適応させていることが示唆された。 2.ヒラメの網膜桿体の増殖機構に関する免疫細胞化学的研究 ヒラメの仔魚では桿体細胞は変態の頃になってやっと現れ、成魚の網膜では一列に並んだ錐体細胞の上に桿体の厚い外節層がみられるので、変態・着底以降も桿体細胞が増殖し続けることが考えられる。PCNA免疫陽性細胞は養殖稚魚の網膜層に豊富にみられた:1)強い反応を示す卵円形の核が外限界膜近くに一列をなし、ときどき有糸分裂像も認められ、2)中程度の反応を示す紡錘形の核は外顆粒層全体にわたって散在し、外網状層付近から外限界膜近くへ移動して桿体前駆に加わる。このような増殖細胞の分布の傾向はトルイジン青染色標本や電顕写真でも確認された。一方、天然成魚(冬季に採捕)の網膜では、周縁部胚芽帯付近を除けばPCNA免疫陽性細胞はあまりみられず、桿体細胞の増殖機構に水温や栄養条件等が影響することも示唆された。
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