研究概要 |
水族館で飼育されているオスのシャチ1頭を対象として,用手法による精液採取訓練を継続して行った.訓練は継続して行われているが,これまでのところ,時折精子を含む射出液が採取されるに至っている.本年度中に採取された射出液を顕微鏡観察したところ,量はわずかではあるが,精子が含まれていたため,精子の凍結保存を行うにあたっての基礎的知見を得るため,それらの精子を回収して形態観察を行った.位相差顕微鏡,走査型電子顕微鏡により外部形態を観察し,他の鯨種と比較したところ,シャチ精子の頭部は他の鯨種では見られない,ウチワ型の形態を有していた.また,精子全長は,他の鯨種に比べてかなり長く,頭部形態および精子全長の点において,本種の精子の特徴が明らかとなった.この成果は,2000年に開かれた日本哺乳類学会で発表されたほか,学術論文としてすでに報告されている. メスについては,シャチを対象とした本実験を開始する前の予備段階として,超音波画像診断装置を用いた卵巣および子宮等の臓器の観察実験を実施し,得られた画像の解読方法を検討した.これは,今後,授精適期を決定する際,卵巣卵胞の発達状態を的確かつリアルタイムに把握することが必要だからである.観察はバンドウイルカなど複数のイルカ類を対象として実施し,卵巣の位置の確認と一部の発達段階の卵巣画像を見ることができた.また,精液注入にあたって,膣から子宮口,子宮内の構造把握が必要であるため,やはりイルカ類を対象として,内視鏡を使用した予備実験を行い,鯨類がもつ特殊な子宮頸口の位置(深さ)や形状を観察・確認することが可能となった.
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