研究概要 |
雄シャチについて新鮮精液を得るため,用手法による精液採取訓練を継続し,その過程をモニタリングしたが,諸般の事情により,訓練が進展せず,現在まで精液の安定採取には至っていない.また,雌シャチについても,排卵誘発実験を行う計画であったが,対象個体が自然妊娠してしまったこともあり,一連の実験が不可能となった.このため,これらに代わる研究として,以下の内容で実験等を行った. すなわち,シャチ精子についても応用できるように,カマイルカ精子のストロー法による凍結保存を行い,約160本のストローを作成した.また,飼育イルカからの精子確保だけではなく,今後,飼育鯨類への人工授精を行うに際して,遺伝的多様性を確保するため,イルカ追い込み漁業の現場で捕殺されるイルカから新鮮精液を採取し,ストロー法による凍結保存を試みた.その結果,ハナゴンドウ,バンドウイルカの精巣上体等を用いて精液の回収を行ったところ,両種とも精子の凍結保存をすることができた.さらに,人工授精の実施にあたって,雌雄各個体の生殖腺の発達状態をリアルタイムに把握できるようにするため,超音波画像診断装置を用いて生殖腺の観察を行った.バンドウイルカ,カマイルカを主な対象として行ったところ,卵巣中の白体,および胎児の存在が確認できたほか,精巣の大きさも測定することができた.また,鯨類の繁殖生理学における基礎的知見として,イルカ類の妊娠期間中におけるプロゲステロンの分泌源の推定を行ったところ,黄体と胎盤の両方がその役割を果たしている可能性が示唆された.さらに,新たな妊娠診断指標としての利用の可能性を探ることもふまえ,絨毛性生殖腺刺激ホルモンを含む妊娠特異タンパクの検索を血液と胎盤組織を用いて試みた.
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