研究概要 |
二枚貝が毒化する下痢性貝毒(DSP)は,公衆衛生のみならず,出荷が規制されることから水産上の大問題でもある。DSPの原因生物として渦鞭毛藻Dinophysis属の9種が知られるが,原因藻の発生と貝の毒化が必ずしも対応せず,毒化機構は不明な点が多い。近年,Dinophysis属の数種について餌生物の捕食が報じられたことから,毒成分を含有する何らかの微小生物を,Dinophysis属が摂食して二次的に毒化するという仮説が立てられる。 ホタテガイが頻繁に毒化する青森県陸奥湾を対象に,青森県水産増殖センターの協力で,海水試料を入手した。マイクロプレートを用いて限界希釈法により,微小藻類(ピコプランクトン及びナノプランクトン)を多数分離培養した。得られた分離株について,毒保有の有無を,ELISA法でスクリーニングした。陸奥湾の分離株163株について調べた結果,4株で陽性反応が得られた。以上から,ELISA法は簡便なDSP毒のスクリーニング法であることが判った。陽性の藻株に関しては,LCMS等によって,DSP毒保有の最終的な確認を将来行う必要がある。 次に,海水中のDinophysis属を計数すると同時に,海水試料を孔径5μmのNuclepore filterで濾過し,濾液画分中の微小粒子をガラス繊維濾紙に捕集して,ELISA法を用いてDSP毒を測定した。その結果,ホタテガイが規制値以上に毒化した時期の1週間前から,また毒化期間中,及び規制値以下へと毒が減少した後暫くの期間に,微小プランクトン粒子画分中にDSP毒が検出された。D. fortii発生と貝の毒化との対応関係は良い時と悪い時が有り,D. acuminataの場合は対応関係が認められなかった。本研究の結果から,海水中のプランクトン粒子を全て捕集し,ELISA法を用いてDSP毒をモニターする事の有効性が示唆された。
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