本研究では、日本沿岸域14箇所で1999〜2001年に採捕された天然ヒラメ(434尾)、マアジ(141尾)、メバル(101尾)およびその他(7魚種134尾)を対象にウイルス検査を実施した。その結果、アクアビルナウイルス、ウイルス性出血性敗血症ウイルス(VHSV)および未同定のピコルナ様ウイルスが分離された。アクアビルナウイルスは、天然ヒラメ、マアジおよびメバルから高率(19〜38%)に分離され、日本沿岸域に広く分布していることが明らかになった。なお、分離されたアクアビルナウイルスのヒラメに対する病原性は認められず、本ウイルスが天然魚あるいは放流魚や養殖魚に対する脅威にはならないと考えられた。 一方、VHSVは若狭湾、伯方島および南伊豆の3箇所で採捕した天然ヒラメから分離され、分離率は各々3〜22%であった。VHSVは、国際的な魚類防疫における最も重要な病原体の一つにあげられているが、今回の分離はアジアにおける最初の検出例である。VHSVにはヨーロッパ型とアメリカ型とがあり、本調査で天然ヒラメから分離したVHSVは何れもアメリカ型であった。しかしながら、分子系統学的解析の結果、これらのVHSVはアメリカから持ち込まれたものではないことが示唆された。さらに、VHSVはヒラメに対し強い病原性を示すことが実験的に確認された。VHSVの分離率はアクアビルナウイルスに比べて低いが、瀬戸内海の伯方島沿岸おいては20%以上であり、これは最近瀬戸内海を中心とした養殖ヒラメにおいてVHSV感染による被害が多発していることと関連していると考えられた。 本研究により、日本沿岸に生息する天然魚が予想以上にウイルスを保有していることが明らかとなった。中でもVHSVはヒラメに対し病原性が強く、養殖・栽培漁業においても特に防除対策が必要であり、またVHSVの天然資源への影響についても懸念される。
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