ボツリヌス菌胞子の発芽初期現象とそれに対するストレス(低温、加熱など)への影響を明らかにすることはガス置換包装食品のボツリヌスリスク評価上重大な知見をもたらすと同時に細菌胞子の生理学上も興味深い。申請者は、二酸化炭素を用いたガス置換包装水産食品のボツリヌス菌の危害評価に関する研究の過程で、低温下(以下)で高濃度二酸化炭素気相下に置くと徐々にではあるがボツリヌス胞子が死滅する可能性があるという、興味深い現象をE型菌胞子の予備実験で見い出していた。 そこで、本研究では、まず、この現象の作用機構を検討したいと考えた。また、E型菌胞子の耐熱性消失を中心とした発芽初期現象に及ぼす二酸化炭素の影響と他の物理的因子(温度など)や化学的因子(培地成分など)との関連についても検討を行うことを目的とし、研究をすすめた。この過程で、これまでにないボツリヌスE型菌胞子の加熱条件緩和技術に結びつく知見を得ることができた。また、二酸化炭素とボツリヌス胞子の発芽・増殖・毒化までの過程に及ぼす影響を総合的に解明するために、加熱生残したボツリヌスA型菌胞子が二酸化炭素気相包装食品においてどのような挙動をとるかについても検討し、リスク機構を明らかにした。さらに、これらのボツリヌス菌胞子発芽およびその後の増殖および毒素産生によるリスクに関する研究遂行中に、これまでのようなマウスアッセイに頼らない遺伝子手法によるボツリヌス菌モニタリング法も開発することができた。
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