研究概要 |
近年、海産動植物にD-アミノ酸が広く分布していることが明らかになってきたが、その由来や生理機能はまだ明らかではない。動物における由来は(1)自身による生合成、(2)腸内あるいは付着細菌由来、(3)食餌由来等が考えられ、軟体類や甲殻類では合成酵素であるラセマーゼの存在が報告されている。一方、我々は基本的に独立栄養生物である海藻や植物プランクトンにD-アミノ酸の存在を見出し、昨年度、海産珪藻4種(Aserionella, sp., Thalasiosira sp., Pseudo-nitzschia sp, Nitzshia sp.)および淡水産緑藻4種(Botrydiopsis alpina, Chlorella pyrenoidos, Chlorella vulugaris, Scenedesumus obliquus)ついて分布を調査し、すべての種に遊離Dーアスパラギン酸が、また珪藻4種に遊離D-アラニンが存在することを報告した。そこで、今年度は結合型D-アミノ酸の存在を検討するとともに、これらのD-アミノ酸が藻体内で生合生されているの可能性を検討するため、珪藻(Aserionella, sp., Thalasiosira sp.)についてD-アスパラギン酸ラセマーゼ、およぴD-アラニンラセマーゼ活性の検索を行った。 結合型D-アミノ酸については可溶性タンパク質および可溶性成分を抽出した残渣について加水分解後、HPLCにてD-アミノ酸を測定した。また、ラセマーゼ活性は2〜3週間、無菌的に培養した藻類を遠心分離により集め、Tris-HCl buffer(pH8.0)中で超音波ホモジナイザーにより細胞を破壊し、遠沈上清を硫安分画、30〜80%飽和沈殿画分を少量の同bufferに溶解し、粗酵素液としてL-アラニンおよびL-アスパラギン酸を基質としてラセマーゼ活性を検索した。ラセマーゼ活性の測定は吸光度法とHPLC法を用いた。その結果、Aserionella, sp., Thalasiosira sp.両珪藻に結合型D-アスパラギン酸およびD-アラニンの存在を認め、また粗酵素液にD-アラニンラセマーゼ活性を認めた。本酵素は至適pH、至適温度、各種化学試薬に対する影響など、細菌由来ラセマーゼの性状と類似していた。
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