研究概要 |
申請者らは本研究課題のこれまでの成果として、数種の珪藻に遊離、ペプチド、およびタンパク態としてD-アラニン及びD-アスパラギン酸が存在することを明らかにした。しかし、その含量は培養条件により著しく変動することを見出した。また、これらのD-アミノ酸の起源を検討する中で、珪藻Asterionella sp.およびThalasiossira sp.にD, L-アラニン変換酵素であるアラニンラセマーゼ活性の存在を認めた。本年度は本研究課題の最終年度として対象を両プランクトンに絞り、培養条件とD-アラニン含量の関連性をより詳細に検討し、さらにアラニンラセマーゼの酵素性状を培養条件との関連の中で調査することによって、珪藻におけるD-アラニンの生理機能を明確にしようとした。 無菌培養した珪藻Thalassiosira sp.およびAsterionella sp.よりTris-HCl buffer(pH7.6)で抽出した粗酵素液を硫安分画、各種クロマトグラフィーで部分精製し、D-またはL-アラニンを基質としてColorimetric hydrazone法およびHPLCによりラセマーゼ活性を測定したところ、いずれの酵素液にも明確な活性が認められたが、アラニン以外のアミノ酸基質に対する活性は認められなかった。Thalassiosira sp.由来の酵素は微生物由来のそれと異なり、補酵素としてピリドキサール5'-リン酸を要求しなかった。最適pHは9.5付近にあり、熱安定性は比較的高く、30℃8時間後の相対活性は80%であった。L→D方向反応のKm値は19.7mMであった。また、本酵素はヒドロキシルアミン、PCMBで強く阻害され、既報のクルマエビアラニンラセマーゼと類似したが、フェニルヒドラジンによる阻害は認められなかった。Asterionella sp.由来の酵素もその性状は極めてよく類似し、両酵素は同じ酵素であろうと推察された。
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