本研究は、(1)1985〜98年間中国農村家計の一般支出と食料需要の弾力性とその変化を計測し、(2)農民負担問題について、その現状、根源と解決策を分析した。 前者の結果だけを要約すれば、以下のようになる。転換期の中国農村に食品類・非食品類とも支出・価格弾力性が高い。92年を境に食品類の支出・価格弾力性は大幅に低下したが、非食品類のそれは逆に弾力化した。食品類需要の弾力性低下は80年代に食生活が改善した成果、食品類が本当の意味で必需品になったことの証でもある。また元々高かった非食品類の支出弾力性は後期に一層大きくなったが、これらの財の消費水準が低く、潜在需要が大きいことと、内需拡大のために農家所得の向上と安定が如何に重要かを改めて示唆した。 食品類の支出・価格弾力性は低下したとはいえ、依然高い水準にある。特に食用油、酒類の支出弾力性は.1前後、畜禽肉、魚介類とその他食品のそれは1.3を超えている。よって、将来食糧、野菜の需要は大きく伸びないが、肉禽卵、魚介類といった動物性食品には潜在需要が大きく、所得水準さえ向上すれば、大きく伸びるだろう。また衣服、日用品等非食品類に関しても農家需要の支出弾力性も都市家計並に高く、人口規模の大きさを考えれば、農村市場での潜在需要がもっと大きいと思われる。 いま、中国経済も内需不足に苦しみ、経済成長の持続性が心配されている。その一因に農家所得の低迷と農村有効需要の不足が挙げられる。農産物価格と農家経済の安定は、国民の食料需要を満たすだけでなく、内需を拡大し国民経済を発展させるためにも欠かせなくなっている。しかしいまの中国は食糧政策が農民保護と言いながら、実際に国営食糧企業が最大の受益者となっており、また農村税費制度と戸籍制度は農民を過徴収し、彼らを差別し続けている。 農民負担問題と農村税費制度について、「中国の農民負担問題-現状、根源と解決策について-」で詳しく分析している。
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