研究概要 |
昨年度(平成12年度)は、流域水文モデルの未知パラメータ(流出モデル定数)の同定に用いられている各種の誤差評価関数の特徴を明らかにした後、パラメータ同定に対して、性質の異なる2つの目的関数をそれぞれ最小化する多目的計画問題を設定し、パレート解を求めた。しかしながら、パレート解の計算には、単目的の最適化アルゴリズムを利用したε制約法ないし加重和最小化法を用いていたため、膨大な計算量が必要であった。今年度(平成13年度)は、昨年度の研究成果を農業土木学会大会、水文・水資源学会研究発表会で発表するとともに、より効率的にパレート解を求めるための手法として、MOCOM-UA法および進化戦略(Evolution Strategy)を検討した。 1,進化戦略(以下ESと略記)は、遺伝的アルゴリズム(GA)に類似した最適化アルゴリズムであるが、乱数による摂動を与える形で突然変異を行い、これを主な探索手段としている点に特徴がある。まず、単目的問題に対するESのプログラムを開発した後、タンクモデル定数探索についてESの探索能力を検証した。その結果、ESの探索能力は、従来の単純GAよりはるかに優れており、最も強力な最適化手法の1つと目されるSCE-UA法と遜色ないことが示され、未知パラメータの多い流出モデル定数の決定にESが有効であることが分かった。 2,次いで、タンクモデル定数探索において、平均二乗誤差平方根(RMSE)と相対誤差の平均二乗誤差平方根(RR)の双方を目的関数とする多目的計画問題に対して、米国アリゾナ大学で開発されたMOCOM-UA法と多目的計画問題に利用できるように修正したESをそれぞれ適用し、これらのアルゴリズムで求められるパレート解が従来法(加重和最小化法)で求めたパレート解と一致するか否かを確認した。その結果、ESによれば、ほぼ全てのパレート解が得られるものの、解の厳密さに若干問題があること、MOCOM-UAによれば、パレートフロントの一部に探索点が集中し、全てのパレート解が求められない場合があること、などが分かった。
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