研究概要 |
この研究は,パキスタン,インド,エジプト,中央アジアなど乾燥地・半乾燥地に位置する農業国で進められている暗渠排水施設の整備後に予想される用水消費量の増大に対処するため,暗渠排水施設を活用した節水的水管理技術の確立に向けた基礎データを得ることを目的とする。本研究は、当初パキスタン・パンジャブ州の代表的な暗渠排水システム「第4排水プロジェクト地区」を対象に計画していたが,一昨年9月11日に起こった同時多発テロを契機にパキスタンの治安状況が悪化したため、同国での研究実施を見直さざるを得ない状況に陥った。このため、方針を大幅に変更し、中央アジアと中国の塩害発生地域を対象に実施することとした。平成14年度は、カザフスタンのシルダリア川下流域クジルオルダ州のシャメーノフ農場イエルタイ灌漑区で、過去に得た実験データをもとに、地下水管理と排水問題についての解析を行った。 その結果、圃場排水路は十分な地下排水機能を有していないため,水稲区と畑作区間の水理的連続性の断続,および水稲区の余剰塩類の排除という本来の役割を果たしていないこと、水稲区からの浸透水は排水路の下方を経て移動し,隣接する畑作区の地下水位を上昇させ塩類集積を加速させていること等が明らかとなった。排水路系の機能と管理の劣悪さは,灌漑区での塩類収支の均衡を崩し,塩類を灌漑区内に集積させることになる。また,排水路の両岸が農道として利用され,締固めが進んでいることも,水稲区からの浸透水を遮断するため,地下排水の機能を大きく損ねている。この改善のためには,両岸(農道)の下に適度な間隔でパィプを埋設する等して,圃場浸透水の排水路への排出を促進する必要がある。暗渠排水の採用は,土壌中の塩類を効率的に除去できる点で有効であるが,この地域の経済力から考えてコスト的に問題がある。また,塩類が大量に集積した土層に暗渠を敷設する場合には,大量の塩類が流出して下流域の水質を悪化させることになるので,十分な注意が必要である。
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