本年度は、島根県東部の水田流域と、その水質のバックグラウンドを与える山林流域や斐伊川の水質測定点において、汚濁物質の挙動を把握した。特に、ノンポイント汚染源負荷の把握に重要となる降雨時の水質水文特性を、ウォーターサンプラーを用いて重点的に測定した。また、降水による負荷量を把握するため、適宜流域において降水サンプルを収集した。これらの中で、本年度はリンの循環について重点的に考察した。観測流域とした低平地水田流域では、用水供給の慢性的な不足から、循環灌漑のためのきわめて複雑な用排水系統が構築され、結果として小規模な水循環型の流域が多数形成されていた。この中の調査流域では、水質水文調査の結果、リンが流域内で吸収浄化される傾向があることがわかった。また、この流域では循環灌漑による水の循環とともに、排水河川に繁茂した水生植物を水系外へ除去する作業と、排水河川の河床などに堆積した底質を浚渫して水田に客入する作業が慣行的に行われ、それぞれの経路でリンの循環が考えられた。調査の結果、年間の物質収支は、調査対象流域で1.15kg/haのリンが吸収浄化されていたが、そのうち循環灌漑、水生植物の除去、底質の浚渫による寄与は、それぞれ約45、5、29%と推定された。水生植物の除去は、植物群落の面積が流域の約1%しかないことから、寄与はわずかであった。考察の結果、循環灌漑や底質の浚渫、水生植物の除去といった人為的操作が、水田流域におけるリンの循環を成立させ、水域から陸域へのリンの移動量が、流域の物質収支の中で重要な役割を果たしていることがわかった。これらのことから、研究テーマである「水田流域におけるノンポイント汚染源負荷の浄化削減モデル」を構築するための一定の材料を得ることができた。
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