研究概要 |
園芸生産場面において普及しているセル成型苗では,移植の遅れにより移植後生育が不良となりやすい.そこで本研究ではセル成型苗の移植後に形成される根系の構造を調べ,移植後の苗の生育を改善する方法を開発することを目的とした.まず,キャベツ種子をセル成型トレイに播種して人工気象器内で発芽・育苗を行い,生育にともなう根系の呼吸や出液の推移を調べ,移植遅れが根の活性におよぼす影響を明らかにした.次に,セル成型苗の移植直後の根系画像を解析する画像処理技術を確立し,キャベツの若苗および老化苗の移植後生育の様相を比較した.その結果,苗の老化が進むと移植後に根が分岐する傾向が強くなり,根系全体の根量は遜色ないものの,根の伸長力が抑えられて土壌中の深い部分への根系分布が困難となった.さらに,根鉢形成を抑えるためのセル成型トレイの改造が移植後生育におよぼす影響を調べた.その結果,根域制限用塗料を塗布したトレイの苗では移植後に発生する根量が若干少なくなったものの,根系構造が改善される傾向が認められた.また,セル壁にスリット状の穴(溝)を開けて水分滞留を抑えた場合には根鉢形成の抑制効果はみられたものの移植後生育への明確な効果は見出せなかった.ただし,潅水量の制御を工夫するなど検討の余地があることが示唆された.以上,本研究の成果を取りまとめると:(1)セル成型苗における根の活性を評価する方法,およびセル成型苗において移植直後に根鉢の周囲へ伸展する根の生育を簡便かつ迅速に評価する方法を確立した;(2)セル成型トレイの根域制限が苗の老化と移植後生育の不良(浅根性など)の主要因であることが示唆された;(3)根鉢形成を抑える処理について移植後生育促進への効果がある程度認められた.これらの成果はセル成型苗の品質を維持して移植後に速やかに根を広範囲に発達させる方法を確立する緒となるものである.
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