研究概要 |
天然油脂をメン羊に給与すると,呼気からのメタン放出量が減少し,可消化養分総量(TDN)が増加した.その原因として,脂肪酸以外の油脂成分が第一胃内でプロピオン酸に代謝されること,または第一胃内で不飽和脂肪酸が水素添加されて,メタンの基質となる水素が消費されることが考えられた.そこで,脂肪酸以外の油脂成分としてグリセリンと不飽和度の異なる天然油脂を飼料に添加して,メタン放出量の違いを調査するとともに,油脂添加によるメタン発生量の抑制機構を明らかにすることを目的とした.実験1では,去勢メン羊を4頭供試した.試験処理は,無添加を対照とし,グリセリン,高度(エゴマ油:リニレン酸51%)と低度(紅花油:オレイン酸78%)不飽和脂肪酸油脂添加の4処理とした.グリセリンと油脂の添加割合は,乾物換算で給与飼料の5%とし,メタン放出量,成分消化率および栄養価を調査した.実験2では,第胃フィステル装着メン羊4頭を供試し,実験1と同様の飼料条件で第一胃内容液を採取し,第一胃内プロトゾア数,揮発性脂肪酸(VFA)および長鎖脂肪酸を測定した.その結果,グリセリンおよび油脂添加により呼気からのメタン放出量が減少し,エゴマ油添加により最も抑制効果が認められた.成分消化率は,油脂添加により,粗繊維消化率が低下したが,粗脂肪消化率が増加したためTDN含量は有意に増加した.実験2では,グリセリンおよぴエゴマ油添加において第一胃内プロトゾア数が有意に減少した.第一胃VFA組成は,エゴマ油>グリセリン=紅花油>対照の順にプロピオン酸型発酵になった.さらに,第一胃内に流入した両添加油脂の不飽和脂肪酸は,水素添加されたことが確認された.以上の結果,脂肪酸以外の油脂成分よりも油脂,特に不飽和度の高い天然油脂がメタン放出量の抑制に有効であることが分かった.天然油脂添加により第一胃内でメタン産生量を抑制する機構として,メタン菌の減少,油脂の不飽和脂肪酸への水素添加および脂肪酸以外の成分が第一胃内でプロピオン酸に変換される際水素が消費されるためメタンの基質が減少したためと考えられた.
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