安定同位体窒素を標識とする尿中窒素の牧草による吸収利用効率を測定した。採取した牛尿に99.9atm%の安定同位体窒素(^<15>N)を含む尿素態窒素を添加し、尿中^<15>Nの存在率比を約1.9atm%に調整した。その結果、牧草による尿中窒素の回収率は、オーチャードグラス草地での尿50cc施用区で78.5%、150cc施用区で50.2%であり、ペレニアルライグラス草地での50cc施用区で22.9%であった。多くの尿中窒素が吸収されずに土壌中に残留したり揮発や脱窒による大気中への移動や地下水とともに流亡したものと考えられる。 採食圧の違いが被食植物の種類組成に及ぼす影響の解明を目的として、放牧地の植生調査を行い、草種構成の変化や種多様性の高さに放牧圧が大きく関係していることを見いだした。放牧圧の異なる管理が行われてきた酪農家の放牧草地の植生を調査した結果、放牧圧が高い管理がなされてきた草地では短草型草種の放牧圧が比較的低い管理の草地では長草型草種の優占が認められた。また適正な放牧管理を行っている草地では、長草型草種と短草型草種が安定的に共存し、高い種多様性を示すことを明らかにした。 さらに、低投入酪農方式を採用する酪農家が存在することが確認され、その方式の是非を検討した結果、それらの放牧草地は、生物多様性を高く保ちながら牛乳生産効率が高いことが明らかとなった。さらに、酪農家レベルでの窒素収支を算出し、放牧利用への依存度が高い酪農家では、窒素の循環利用の効率が高いことを見いだした。さらに、低投入酪農家の放牧草地で観察された高い種多様性と環境保全性の理由を知るために検証実験を試みた。人工草地の安定性・持続性と種多様性および施肥管理との関係について野外実験を行った結果、放牧草地への長年の施肥によって草地の持続性が低下し種多様性が低下する場合があることを明らかにした。 さらに、長草型の半自然草地において、種多様性の違いが、家畜糞尿中の安定同位体窒素で標識した尿素態窒素の回収率に与える影響を検討しており、種多様性の高い草地ほど窒素の回収率が高いことが明らかになりつつあるが、結果についてはさらなる吟味が必要であると考えている。
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