本研究では、マウスおよびウシの卵胞内卵子の体外成熟、体外受精、体外培養について細胞遺伝学的見地から検討し、細胞遺伝学的に正常な胚の効率的作出に繋がる卵胞内卵子を用いた体外受精系の確立を目的とした。 1.マウス卵胞内卵子の体外受精後の発生能と初期胚の染色体分析 過排卵処理後の雌マウスよりhCG投与後9、10、11、12時間後に卵胞内卵子を採取、培養し、hCG16時間後に雄マウスの精巣上体尾部より採取した精子を2時間培養後、最終濃度200精子/μlで体外受精させた。一部の受精卵は第一分割期に染色体標本とし、その他は胚盤胞期まで発生させて染色体標本とした。第一分割期における多倍体胚の出現率は卵胞内卵子区では、11.6-24.2%で排卵卵子区の9.5%より高かった。胚盤胞への発生率は、卵胞内卵子区では61.4-67.2%で排卵卵子区の84.0%に比べて有意に低かった。胚盤胞期では、卵胞内卵子区で3倍体が2例観察された。この結果より、卵胞内卵子は受精能力を有するが多精子侵入を受け易く、また発生率の低下を示すことが明らかとなり、卵子の成熟が不十分なためと考えられた。本成果は、国内学会および国際学会で発表された。 2.ウシ未成熟卵子の体外成熟とその初期胚の染色体分析 ウシ体外受精における染色体異常胚の一因を探るために、卵胞内卵子の体外成熟時間に注目し、極端に成熟時間を短縮させた卵子を体外受精に供し、作出された胚の染色体分析を行った。卵胞内卵子を卵丘細胞と共に12または26時間体外で培養した後、体外受精に供し、媒精48時間後に分割した胚の染色体標本を作製した。媒精48時間後に26時間区では83%が8-16細胞期で、12時間区では75.8%の胚が2-4細胞期であり、発生の遅延が見られた。12時間区における染色体異常の出現率は66.7%で、26時間区の27.8%より有意に高かった。胚において観察された性染色体構成から、これらの異常は未熟な卵子への精子侵入によって引き起こされたと推察された。本研究結果は原著論文として発表された。
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