本研究では同胞異種のmtDNAが胚幹細胞株のキメラ形成能に与える影響を調べるために、近交系C57BL/6J (B6)と同胞異種マウスMus. spretusのmtDNAを持ち核内はB6のミトコンドリアDNAコンジェニックマウスB6mt^<spr>から胚性幹細胞(ES細胞)株を樹立し、それらのES細胞株を用いてキメラマウスの作製を試みた。B6及びB6mt^<spr>のES細胞とICR系マウス受精卵とでキメラを作製した場合、B6mt^<spr>のES細胞だけから生殖系列キメラが得られた。またテトラプロイドコンプリメンテーション法によりB6及びB6mt^<spr>のES細胞の全能性は確認された。これらの結果から、B6mt^<spr>のES細胞だけが生殖系列キメラが得られたのはES細胞のキメラ形成能の差ではなく、精子の能力差であると考えられた。そこでB6、B6mt^<spr>及びICR系マウスの精子能力を比較した。結果はICR系マウスが最も高く、B6が最も低かった。またBALB/Cの核DNAと亜種マウスMus. m. musuculusのmtDNAを持つBALB/C mt^<mus>の精子能力はB6よりさらに低いことがわかった。BALB/C mt^<mus>の精子は能力が低いのでES細胞とキメラ形成させた場合、生殖系列キメラになる可能性が高いと考えられた。ICR系マウスとキメラを形成した場合には生殖系列キメラにならなかったB6のES細胞とBALB/C mt^<mus>の受精卵(胚盤胞)を用いてキメラマウスを作製したところ、高率に生殖系列キメラが得られた。以上のことよりmtDNAは精子の能力に影響を与えることが示唆された。
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