研究概要 |
ブタ精子の凍結保存技術を確立させる目的で,ブタ精子の細胞膜の流動性を向上させることが精子の耐凍性に及ぼす影響について検討した. まず,精子細胞膜中のコレステロールを除去する目的で,射出ブタ精液を修正Hulsenberg溶液で洗浄後,細胞膜のコレステロールを除去することが知られている2-Hydropropyl-beta-cyclodextrinを添加した溶液中に浮遊させ,5℃で2時間反応させた.処理後定法に従って凍結した.その結果,2-Hydropropyl-beta-cyclodextrin処理により,融解後の精子の先体の正常性,膜の正常性がそれぞれ向上し,生存性や運動性においても未処理凍結融解精子に比較して有意に高い値となった(文献1). 次に,2-Hydropropyl-beta-cyclodextrinによる精子細胞膜のコレステロールの除去が,精子の冷却時の温度衝撃を緩和しているのか,または精子の耐凍性を向上させているのかを検討する目的で,2-Hydropropyl-beta-cyclodextrin処理後に精子を5℃まで冷却した.その結果,加温後の精子の先体の正常性,膜の正常性,生存率,運動性において,未処理の精子のそれらに比較して高い値を示した.これらのことから,精子細胞膜中のコレステロール除去は,温度衝撃の緩和と耐凍性を向上させることが示唆された(文献2). 最後に,2-Hydropropyl-beta-cyclodextrinとは異なる細胞膜中のコレステロールを除去する作用を有するMethyl-beta-cyclodextrinのブタ精子耐凍性への影響を検討した.その結果,Methyl-beta-cyclodextrinも精子の凍結融解後の精子先体の正常性,細胞膜の正常性,精子の生存率,運動性をそれぞれ向上させること,この効果が,コレステロールの添加により抑制されることが示された.これらの結果から,ブタ精子の細胞膜中に存在するコレステロールを除去することが,精子の耐凍性を向上させることが明確にされた(文献3).
|