研究概要 |
ブタ精子の凍結保存は古くから実用化が強く求められながら,有効な技術は未だに確立されていない.その原因は他の細胞に比べて凍結障害に対する感受性が著しく高いためである.そこで,凍結障害が発生する機構をより深く理解し,それに基づき新たな凍結保存法を開発することが必要である.これまでは精子細胞膜の流動性を上昇させることが精子の温度衝撃及び凍結障害を抑制することを明らかにしてきた.本年度はなぜブタの精子の耐凍能が低いのかを明らかにする目的で,精漿と精子の接触する時間と耐凍能との関係について検討した. 採精後出来るだけ速く洗浄した精子を希釈液あるいは射出精液精漿に浮游し,両精子を凍結保存し,融解させた精子の運動パラメターおよび受精能力に関係するパラメターを測定した.その結果,希釈液に浮游された区の融解精子における運動パラメターは,全て,精漿に浮游させた区に比べて有意に高い値を示した.また,希釈液に浮游させた区における融解精子の卵子への侵入率,および先体反応誘起率ともに,精漿に浮游させた区に比べて著しく高い値を示した.これらの結果から,ブタの射出精液精漿は精子の耐凍能を低下させる因子を含むことが明確にされた.次に,射出精子の耐凍能を低下させる因子がブタのどの副生殖腺から分泌されるかについて検討する目的で,手術により精嚢腺排出管を切断したブタを作製し,そのブタから採取された手術前後の精漿が精子の耐凍能に及ぼす影響を調べた.その結果,精子の耐凍能を低下させる因子はブタの精嚢腺が分泌する液に含まれていることが明らかにされた.更に,これらの結果に基づき,精漿の影響を極力抑制する採精法すなわち希釈液を入れた容器に採精する採精法を考案し,採取した精子の耐凍能を調べた.その結果,この方法で採取した精子の耐凍能が著しく高いことが証明された.
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