肉用牛の育種で想定される3つの場面を取り上げ、クローン家畜の利用によって期待される効果と弊害を統計遺伝学的手法によって評価した。 1.クローン牛のコマーシャル利用 クローン牛をコマーシャル利用することで、もっとも期待される効果は、生産物の斉一性が高まることである。そこで、クローン個体の相同性について、個体間の表現型値の相関と個体間の表現型値の差の標準誤差に基づいて検討を加えた。その結果、クローン牛のコマーシャル利用は、確かに生産物の斉一性を向上させるが、この技術のみによって十分な斉一化が可能であるとは言えないこと、とくに多くの経済形質のように中程度の遺伝率を持つ形質では、クローン個体の利用による斉一性の向上は直感的に期待されるほど大きくは望めないことが明らかになった。 2.クローン検定 クローン技術の育種的利用として、候補畜のクローンを多数作りそれらを検定して候補畜を検定する方法(クローン検定)の選抜の正確度を従来の後代検定と比較した。その結果、クローン検定は、一見すると従来の後代検定よりも正確度が高いように思えるが、優性効果が存在する場合には後代検定の正確度のほうが高くなる場面があることが示された。 3.クローン種雄牛の利用 まず、クローン種雄牛を作る価値のあるスーパー種雄牛が得られる確率を決定論的モデルによって試算したところ、その確率は遺伝的改良が順調に進んでいる集団では極めて低いことが明らかになった。つぎに実際にクローン種雄牛を供用した場合に生じる集団の遺伝的構造の変化について、現実の黒毛和種の血統データを用いたシミュレーション実験によって検討した。その結果、ドナー種雄牛を利用した集団に対して、そのクローン種雄牛を供用すると、集団の有効な大きさの縮小や遺伝的多様性の低下など育種を行っていく上で望ましくない変化が生じることが予想された。
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