ウマの関節滑膜を構成する主要な細胞(B型滑膜細胞)に脳特異蛋白の一種であるPGP9.5が特異的に含まれ、この細胞のマーカーになることを示した(前年度)。本年度は、まずPGP9.5が関節液中にも存在することをイムノブロット法で確認した。脳由来のPGP9.5と同じ分子量(23kDa)をもつ免疫反応物が正常関節液中に見出された。次いで、特異抗体を用いてenzyme-linked immunosorbent assay(ELISA)法を確立した。このアッセイ系を用いて、正常馬と関節疾患馬から採取した関節液中のPGP9.5含有量を測定した(脳蛋白質50μg中に含まれるPGP9.5を1unitに設定した相対的な値)。その結果、正常関節の関節液中に含まれるPGP9.5は0.329+0.033unitであったのに対し、関節内骨折では0.871+0.462unitと有意に上昇していた(p<0.05)。変形性関節症(0.701+0.435)と感染性関節炎(0.567+0.132)ではコントロールに比べて有意な差ではなかったが、上昇傾向にあった。従って、少なくとも関節内骨折の診断には本アッセイ系が利用できることがわかった。2種類の抗体を用いたサンドイッチ法を導入し、さらにアッセイ系の感度をあげることで、PGP9.5の測定を臨床的に応用できる可能性が示唆される。 一方、PGP9.5の免疫染色を腱鞘に応用し、ここでの滑膜細胞の組織学的検索を可能にした。関節滑膜に見られるものと同じB型滑膜細胞が腱鞘内面(壁側、腱側ともに)をおおうが、その分布様式は部位により異なり、腱鞘ヒダ付近では密に分布するが、それ以外の部位での分布はかなり疎であることがわかった。疎な部位でも、細胞は細長い突起を多数伸ばして滑膜表面に突起網の堆積層を構築し、物理的な刺激に耐え得るようになっていた。
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