脱共役タンパク質UCP2(uncoupling protein2)の肝臓での発現がエネルギー代謝調節および物質(糖・アミノ酸・脂肪酸)代謝に与える影響を明らかにするため、以下の実験を行った。肝細胞でのUCP2の発現を解析したところ、肝部分切除後の再生肝において発現が増大した。肝臓潅流法を用いて、種々の代謝について検討したところ、再生肝では脂肪酸からの酸素消費(ベータ酸化)やケトン体生成が促進し、ケトン体生成1モル当りの酸素消費量は対照に比べ有意に高く、逆にミトコンドリア内のNADH/NAD比(β-ヒドロキシ酪酸/アセト酢酸比)は有意に抑制されていた。しかしながら、UCP2の発現は偽手術群でも見られたことから、UCP2は脂肪酸化、レドックス調節、ケトン体生成とは直接関与しないと考えられた。 次に、肝細胞におけるUCP2遺伝子の発現調節機構を明らかにするためにUCP2遺伝子のプロモーター領域をクローニングし、2つの肝細胞由来細胞を用いて分泌型アルカリフォスファターゼをレポーターとするレポータージーンアッセイを行った。内在性にUCP2を発現するHepG2細胞では転写関始点とその上流100塩基の間に転写調節部位が少なくとも2つ存在することが明かとなった.UCP2を発現しないHep3B細胞を用いて同様の検討を行ったところ、HepG2細胞よりもむしろ強いプロモーター活性を示した.Hep3B細胞を脱DNAメチル化剤であるアザシチジンで処理するとUCP2が誘導されたことから、この細胞ではUCP2プロモーター領域のDNAがメチル化されていたため転写因子が結合できず発現が抑制されていたと考えられた。以上の結果から、肝細胞におけるUCP2の発現には転写調節因子に加え、エピジェネチックな転写調節が重要であることが示唆された。
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