研究概要 |
本研究では、スクレイピーやBSEの自然状態での主な感染経路である経口感染において、プリオンの侵入門戸を明らかにする目的で、リンパ節やパイエル板など二次リンパ系組織を欠く変異マウス[ALY(alymphoplastic)マウス]と、その野生型であるC57BL/6マウスを用いて、腸管付随リンパ装置が侵入門戸となる可能性について調べた。ALY/ALYマウスおよびその野生型マウスC57BLに、マウススクレイピー病原体を経口、腹腔、および脳内の各ルートで投与して、スクレイピーに対する感受性を調べた。脳内接種ではC57BLは165±5日、ALYでは159±8日でマウスはスクレイピー末期となった。マウス間で有意差は認められなかった。腹腔内接種ではC57BLは251土9日、ALYでは279±6日でマウスはスクレイピー末期となり、ALYマウスで20日程度潜伏期が延長した。経口投与ではC57BLは307±7日でスクレイピー末期となったが、ALYマウスは投与後640日でもスクレイピーを発症しなかった。っまり、ALYマウスは経口ルートではプリオンに感染しなかった。また、経口投与、および腹腔投与後20,40,80日でマウスの消化管、脾臓を採取して、各時点における組織中の感染価をマウスバイオアッセイにて調べた結果、C57BL/6マウスでは調べた全ての時点でプリオン感染価が検出されたが、ALYマウスでは検出されなかった。また、プリオンを経口ルートで投与したC57BL/6の脾臓、消化管(粘膜下リンパ濾胞)ではPrPScが検出された。これらの結果から、パイエル板などの消化管付随リンパ装置が侵入門戸として重要であると考えられた。最近、ALYマウスの原因遺伝子はNF-κB inducing kinaseであることが明らかにされた。これまでALYマウスは主に免疫研究に用いられてきた。プリオンの侵入門戸の一つとして、消化管神経が考えられている。そこで、ALYマウスが消化管神経の構築に異常を伴うか否かを調べたが、消化管神経の走行や密度はC57BLとALYマウスの間で差は認められなかった。本研究の成果から、経口的に取り込まれたプリオンは、消化管上皮に存在するM細胞を経て宿主体内に侵入し、濾胞樹状細胞を経由して、末梢神経へと侵入することが示唆される。プリオンに対する感受性が高い若齢反芻獣のパイエル氏板を覆うドームでは、M細胞が多数存在すること、また若齢反芻獣の回腸遠位部でパイエル氏板が発達していることなどから、回腸遠位部のパイエル氏板がブリオンの侵入門戸となる可能性が高いと考えられる。
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