鳥類の視覚機能、特に動体視、形態視、色覚おいて優れていることは古くから行動学的に知られている。網膜の出力ニューロンである網膜節細胞の形態計測をニワトリ網膜でおこなったところ、ニワトリの網膜節細胞は7種類、400万個あり、優れた視覚機能を十分示唆する結果であった。そのうち、いくつかのタイプの網膜節細胞は視蓋の特定の層と関係していた。今年度は網膜の領域的特殊化と網膜の出力ニューロンである7種の網膜節細胞の特殊化がいつ、どの様な経過で進むのか、発生学的に実験を行なった。 ヒヨコ網膜における網膜節細胞層の細胞数はE14で最も高く(7.85百万個)、以後、徐々に減少する。細胞密度も胚齢と共に減少するが、その減り方は網膜の部位により不均等であり、結果的に、減少率の低い網膜の中央部と背側周辺部に中心野と背側野が出現する。一方、この二つの網膜域から離れるにつれ減少率が高くなり、中心から辺縁に向かう密度勾配が生じ、領域的特殊化がE11で生じていた。細胞の大きさは発生初期にはどれも小型で非常に均一で、その出現頻度のグラフは平坦であった。発生が進に従って(特にE14以降)大きな細胞が出現し、左に寄った一峰性の出現頻度のグラフを描くようになり、さらに胚齢が進むにつれ、際だって大きな節細胞が出現し、その峰は中央に寄るとともに、その右側に長い裾を引くようになった。これらのデーターは細胞数が減少し始め、網膜の領域的特殊化が起こる頃より、網膜節細胞の特殊化は顕著となることを示している。蛍光色素の細胞内注入およびDiI標識した結果、E8ではβ型様の網膜節細胞が多数出現しており、α型様網膜節細胞はE11でも出現していたが、E14以降しばしば見られるようになった。
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