本年度は、まずウシ特有の血小板凝集機構についての基礎知見を得ることを試みた。次に、遺伝性疾患であるChediak-Higashi症候群(CHS)に伴う出血傾向はコラーゲンによる血小板凝集反応が損なわれているためであることがすでに分かっている。その原因を究明するため、血小板凝集に必須である血小板内Ca^<2+>濃度([Ca^<2+>]_i)上昇反応を正常およびCHSに罹患した黒毛和種牛の血小板で比較検討した。1.ウシ血小板の特性 ヒト血小板のコラーゲンによる凝集、[Ca^<2+>]_i上昇にはトロンボキサンA_2(TXA_2)の関与が大きいが、ウシ血小板ではコラーゲンの作用にTXA_2の関与はわずかであり、コラーゲンによる[Ca^<2+>]_i上昇の大部分は、コラーゲンの直接作用によるものであった。コラーゲンは、ウシ血小板でホスホリパーゼC(PLC)を活性化し、ストアからCa^<2+>遊離を起こすイノシトール3リン酸産生を増加し、同時に、細胞外からのCa^<2+>流入を増加して[Ca^<2+>]_iを上昇することがわかった。2.CHS血小板の凝集不全の原因 CHS血小板では、コラーゲンによるイノシトール3リン酸の産生が有意に抑制されていたことから、コラーゲンレセプターからPLC活性化に至るまでの経路に異常があると考えた。血小板上のコラーゲンレセプターで血小板活性化に重要なのは糖蛋白質GPVIとGPIa/IIaである。GPVI、GPIa/IIaのいずれに異常があるかを知るために、GPVIを特異的に活性化するconvulxinおよびGPIa/IIaを活性化するrhodocytinを用いて[Ca^<2+>]_i上昇反応を比較したところGPIa/Iaを介する反応に異常があることがわかった。一方、コラーゲンと血小板の粘着実験から、GPIa/IIa自体の発現は正常であったので、GPIa/IIaの下流にあるシグナル伝達系に異常があることが示唆された。
|