研究概要 |
ミエロペルオキシダーゼ(MPO)は好中球に存在する活性酸素の代謝酵素であり、過酸化水素から次亜塩素酸が生成される反応を触媒する.従来のIn vitroの実験によると、MPO欠損患者から採取した好中球は微生物の殺菌力に低下がみられる。しかし、MPO欠損患者は健康な生活を営んでおり、わずかにカンジダ菌に感染し易い傾向が認められているに過ぎない。したがって、MPOが個体の感染防御に不可欠な酵素なのかどうか明らかではない。そこで、個体レベルでのMPOの機能を知るために、我々がすでに作製しているMPOのノックアウトマウス(MPO-KOマウス)を用いて、種々の真菌および細菌に対する感染防御能を解析した。 まずカンジダ菌を鼻腔内投与すると、野生型マウスの状態にはなんら変化は認められなっかたが、MPO-KOマウスは肺炎を誘発し、5日目までにおよそ2/3のマウスが死亡した。さらに、その他の病原微生物に対する易感染性を調べるために、真菌(アスペルギルス,クリプトコッカス,トリコスポロン)または細菌(黄色ブドウ球菌、肺炎球菌、緑膿菌,クレブシエラ)を鼻腔内投与し、48時間後の肺における残存菌数を測定した。その結果、MPO-KOはトリコスポロンと緑膿菌の殺菌能も著しく低下し、さらにアスペルギルスとクレブシエラの殺菌能も野生型マウスとの比較において有意に低下していた。しかし、黄色ブドウ球菌と肺炎球菌に対する殺菌能の低下はほとんど認められなかった。すなわち、MPOはカンジダ菌のみならず、多くの真菌や細菌感染に対する生体防御に重要な酵素であることが個体レベルで明らかとなった。
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