飛翔能力により選抜・改良が重ねられた結果、心肥大(スポーツ心臓)を有するようになったレースバトと、その同一種であるドバトの心臓とを形態計測学的に比較することにより、スポーツ心臓の特徴ならびに意義を特に心筋細胞の形態学的側面から明らかにするとともに、スポーツ選手や競走馬にみられる心臓性突然死の発生メカニズムを解明するための基礎データを得ることを目的に、レースバト48羽(3か月齢〜10歳)とドバト65羽(3か月齢〜成鳥)を用いて心臓の形態計測学的検索(計測項目:心臓重量/体重比、左心室の壁面積および内腔面積、心筋細胞の断面積および長さ、心筋層の毛細血管密度)を実施した。その結果、心臓重量/体重比に関しては3か月齢から成鳥に至るまでレースバトがドバトを15.3〜16.8%上回っていた(P<0.01)。左心室の壁面積に関して両者に有意差は認められなかったが、内腔面積はレースバトがドバトを29.7%上回っていた(P<0.001)。また、心筋細胞断面積および心筋組織内の毛細血管密度については両者間に有意な差はみられなかったが、心筋細胞の長さに関しては3か月齢から成鳥に至るまでレースバトがドバトを16.2〜20.1%上回っていた(P<0.001)。これらの所見から、レースバトにみられるスポーツ心臓は長距離ランナーの特徴とされる遠心性心肥大、すなわち循環血液量増加に伴う容量負荷心肥大の範疇に属するものであること、ならびにそのような形態的特徴は生まれながらにして備わっている形質であることが明らかになった。
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