エンドウなどの芽生えの全タンパク質の2-5%含まれる植物の49kDa Apyraseは、相反する複数の局在を持つ多局在性の酵素である。本研究は、植物Apyraseの50年の研究歴史のなかで、分子構造と局在について総合的な知見を与えようとするものである。Apyraseの分離精製法を確立し抗Apyrase抗体を作製して、多局在性をしらべた結果、研究者ごとに異なる局在を統一的に解釈することに成功した。そして、次に単一の遺伝子産物であるApyraseが、どのような分子構造をし、どのように多局在性を示すかの分子機構の解明をおこなった。遺伝子やタンパク質の構造、分子修飾などを生化学、分子生物学、および分子細胞生物学的手法を用いて明らかにした。エンドウでは事実上一つのApyrase遺伝子が芽生えの初期段階で誘導・発現することを明らかにし、これが、分子修飾を受けて多数のアイソタイプを生じるメカニズムについて考察し、リン酸化によるアイソタイプの生成が、酵素活性の調節や局在を決める重要なステップのひとつであることを示唆した。Apyraseの等電点アイソタイプの分離方法の確立のみならず、酵素活性のIEFアイソタイプごとの違いをあきらかにした研究はこれがはじめてである。このタンパク質はリン酸化によると考えられる5つの近接した等電点アイソタイプからなり、それらの存在比と細胞内分布が器官、発芽ステージにより異なることを明らかにし、さらにこれらの近接するアイソタイプの分離法を確立し、各アイソタイプごとの分子構造ならびに酵素活性を解明した。これらの成果は、米国植物生物学会で2回発表され、また4編の国際的学術論文にまとめられた。
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