研究概要 |
キトサンは人工皮膚・人工骨・縫合糸・傷口保護用粉剤等の医療材料として、免疫活性を高めるための健康食品として、農作物収量増大のための土壌改良剤として年々その需要が高まっている。現在、工業的にはキチンを高濃度のアルカリによる脱アセチル化でキトサンを生成しているが、この際に生じる高濃度アルカリの廃液が大きな問題である。そこで、この脱アセチル化を酵素であるchitin deacetylaseを用いて行うことを考えた。 Kafetzopoulosらにより報告されているキチンデアセチラーゼに共通なアミノ酸配列に対するプライマーを作成し、ヒゲカビのゲノムDNAを鋳型としてPCRを行ったところ、約200塩基対のDNA断片が得られた。この断片の塩基配列にはKafetzopoulosらのクローンと高い相同性が観られた。λ-ZAP vectorを用いてヒゲカビcDNAライブラリーを作成し、上記DNA断片をプローブとしてchitin deacetylaseをコードする遺伝子をライブラリーからクローニングした。クローンニングされた遺伝子をPbCDと名付けGenBankに登録した。登録番号はAB046690である。この遺伝子によりコードされるであろうタンパク質についてFAMSにより立体構造解析を行ったところ、2個以上のサブドメインによって構成されており、その構造はKafetzopoulosらが報告したchitin deacetylaseと非常に類似していることが示された。このクローンを発現ベクターpET-32Ek/LICに組み込み大腸菌で発現させたところ、chitin deacetylaseを生産することが確認できた。この酵素にとっての至適条件はpH5.5,37℃であった。また、N-acetyl-D-glucosamineのオリゴマーを基質とした場合の酵素活性は、コロイドキチンを基質とした場合の活性に比べて脱アセチル化率が高く、Chitotriose, Chitopentaoseなど、奇数の重合体に対しは偶数の重合体に比べ高い活性を示した。N-末端の膜に結合す部分に相当するDNAの配列を欠失させて、タンパク質を発現させると、このタンパク質はコロイドキチンを基質とする活性の上昇を示した。分子育種により、より活性の高い酵素を合成させる可能性が推察された。
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