本研究はこれまでに、毛の動きを検出する槍型知覚神経終末の生後発達に伴うシュワン細胞の形態変化をラット洞毛で追跡し、次の点を明らかにした。(1)槍型終末の新生に先行し、細長い突起を放射した星型の幼若シュワン細胞が現れる。(2)この細胞突起は、毛の運動による組織変形の影響を受け易いよう、毛包基底膜直下の膠原線維と密接な関わりを持って毛軸方向に伸長する。(3)次いで、毛包に分布する有髄線維の先端から、裸の軸索終末がこのシュワン突起に沿って伸びる。(4)幼若型シュワン細胞の突起のうち、神経軸索と接触したものは、幅広く変形して槍型終末を包む鞘となる一方、軸索と接触しなかったものは、次第に退行して、成熟型の終末シュワン細胞が形成される。これらの観察結果は、知覚終末シュワン細胞の形態成熟に、周囲組織の変形による機械刺激や、軸索終末との相互作用が重要な役割を果たすことを示唆する。そこで、コラゲナーゼ消化によって洞毛毛根から槍型終末を含む膜状組織片を分離し、蛍光性細胞内Ca^<2+>濃度指示薬を負荷して共焦点顕微鏡観察し、細いガラス針で軽く触れたり、知覚線維から放出されるといわれる神経伝達物質アデノシン5'三リン酸(ATP)を細胞外に与えたときの、終末シュワン細胞の反応を調べた。槍型終末シュワン細胞の突起をガラス針の機械刺激によって一時的に変形させると、突起内のCa^<2+>濃度が一過性に上昇し、その信号は、細胞質に沿って、シュワン細胞核周部まで伝播した。また、この細胞を100μM ATPで灌流すると、同様のカルシウム信号が各細胞突起で独立して生成し、核周部に伝播するのが観察された。一般に、刺激に反応した分泌、突起形成などの重要な細胞活動に、Ca^<2+>は、細胞内二次伝令物質として関わることが知られる。今回観察された刺激応答性は、槍型終末の発達に伴う終末シュワン細胞の形態変化に重要な関わりをもつと予測される。
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