本研究は、排卵に向かう成熟卵胞と閉鎖する卵胞との構造上の違いを明確にし、さらに、大多数の卵胞を閉鎖させているにも関わらず、全く炎症性変化を伴わない卵巣の臓器特異性を免疫組織学を含む形態学的方法により解明しようとするもので、本年度の研究成果はつぎの通りである。 1.生後0〜5週齢の未成熟、6〜10週齢の成熟マウスおよび老齢マウスの卵巣を形態学的に観察した結果、若い成熟マウス(6〜8週齢)にさまざまな閉鎖過程の卵胞が多数観察され、排卵に向かう成熟卵胞に比較して、閉鎖卵胞により高頻度にアポトーシス細胞が出現することを確認した。 2.成熟マウスの発情周期ごとに、卵胞上皮細胞および卵細胞におけるアポトーシス発現の頻度を精査した結果、発現頻度と周期との間に特別な関連性を認めなかった。 3.自然周期のマウス卵巣において、排卵に到達する成熟卵胞の準超薄連続切片を作製し、アポトーシスに陥った卵胞上皮細胞の出現頻度を調べた結果、少数ながら発現しており、アポトーシス細胞の発現しない成熟卵胞の存在は確認できなかった。 4.閉鎖するとみられる卵胞の卵細胞の退縮機構を明らかにするため、準超薄連続切片を観察した結果、数個から100個の卵丘細胞が透明帯を通過して卵細胞に接触し、これら上皮性細胞が変性した卵細胞を貪食する可能性が示唆された。 5.初年度の研究計画にはなかったが、本研究の主たる目的である卵巣における臓器特異性を確認するため、マウスの卵管膨大部の上皮細胞における代謝更新について比較観察した結果、上皮細胞にもアポトーシスが発現しており、これらの細胞は隣接する正常な上皮細胞により貪食されるか、または膨大部の内腔に直接排出されることを確認した。
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