本研究では、大多数の卵胞を閉鎖させているにも関わらず、全く炎症性変化を伴わない卵巣の臓器特異性を形態学的に観察した結果、つぎのことを明らかにした。 1)閉鎖卵胞ではアポトーシス細胞の出現頻度が高く、アポトーシス細胞を正常な果粒層細胞が貧食・消化する。2)アポトーシスに陥った果粒層細胞を貧食する細胞は、正常な果粒層細胞であり、免疫組織化学的結果から、マクロファージは閉鎖卵胞の退縮機構に関与しないと考えられる。3)閉鎖卵胞の卵細胞は、自己融解により変性するとともに、透明帯を侵入した正常な果粒層細胞により貧食される。4)準超薄完全連続切片の観察結果から、数個から100個程度の細胞が透明帯を貫いて侵入し、これらの細胞が変性し小片化した卵細胞を貧食する。5)透明帯を貫通する細胞の微細構造は、卵丘細胞や果粒層細胞に類似すること、ギャップ結合により侵入細胞どうしが連結していることから、侵入細胞は卵胞上皮細胞である可能性が高い。6)終末期の閉鎖卵胞では、卵胞の基底膜も不連続となり、やがて完全に消失することにより、透明帯は細胞間の基質と完全に同化し閉鎖が終了する。 以上、マウスの閉鎖卵胞は高頻度に発現するアポトーシス細胞を正常な果粒層細胞が貧食することにより、また、卵細胞についても同様の機構で退縮させていることから、マウス卵巣の閉鎖過程にマクロファージは関与ない可能性が強く示唆された。したがって、大多数の卵胞を閉鎖させているにも関わらず、卵巣に炎症像を認めない理由を明らかにすることができたと考える。
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