1.fyn遺伝子欠損マウスの精巣には、ectoplasmic specialization(ES)と呼ばれる、セルトリ細胞特有の接着装置に微細形態的な異常が見られた。その異常は、生後発達過程においてfyn遺伝子欠損マウス精巣が多くの変性した生殖細胞を生じる生後3週齢において、とくに多く見られることがわかった。また、ESにはFyn蛋白やチロシンリン酸化蛋白も多く局在することが免疫組織化学により示された。従ってFynがセルトリ細胞のESにおいて何らかの機能を果たしていることが考えられる。 2.精巣抽出蛋白質をTriton X-100可溶及び不溶分画に分け、Western blottingを行った結果、不溶分画において約80kDaの蛋白(P80)が野生型マウス精巣では強くリン酸化されているが、fyn遺伝子欠損マウス精巣では特異的にリン酸化が低下していることがわかった。Fyn蛋白はこの不溶分画に存在するので、P80がFynチロシンキナーゼの標的で、セルトリ細胞内情報伝達を介して生殖細胞の生存・分化に関与しているのかもしれない。 3.セルトリ細胞由来の細胞株であるTM4を免疫組織化学的に調べたところ、TM4はFyn蛋白を発現していることがわかった。また二次元Western blot法を用いて調べた結果、diethylstilbestrol(DES)を始めとするいわゆる内分泌撹乱化学物質を処理した場合、特定の蛋白のチロシンリン酸化が亢進していた。チロシンキナーゼであるFynとの関連が示唆される。
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