研究概要 |
本研究の目的は体腔の膜構造に発現する細胞接着分子の動態の解析を基礎にして、腹膜、胸膜の癒着機構を明らかにすることである。 1.腹腔、胸腔の生体防御機構 これまでの研究より白血球と腹膜中皮との細胞接着分子を介した相互作用により三段階の過程を経て癒着に向かうことが明らかになった。第1段階はICAM-1とLFA-1,Mac-1を介する弱い接着、これは正常状態で見られる。第2段階はICAM-1とLFA-1,Mac-1に加えてVCAM-1とVLA-4による接着で軽度炎症時に機能する。最後がVCAM-1、VLA-4とファイブロネクチンによる上皮剥離をともなった強固な接着で、この過程を経ると癒着が開始される。 2.白血球の供給部位 腹腔における白血球の供給部位は大網の乳斑であり、免疫学的に絶えず活性化した場所である。白血球の供給はホーミングのプロセス以外に現場での増殖によっても行われること、これらの白血球の湧出はstomaを通じて行われること、その際ファイブロネクチンとVLA-4との相互作用が大きな役割を果たすことが推定された。胸膜の細胞接着分子の動態は腹膜にほぼ類似し、白血球供給源の一つが肋骨周囲の脂肪組織中にあるのがわかった。その部位の胸膜中皮は中皮の幹細胞としての性質を持つ。 3.白血球の遊走と癒着の抑止 胸膜中皮細胞、白血球に発現する接着分子をブロックすると白血球の湧出は劇的に抑制された。炎症の過程で利用される接着分子が異なることを考慮した場合VCAM-1,VLA-4のブロックが効果的である可能性が高い。
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