研究概要 |
神経筋接合部(neuromuscular junction,NMJ)の発育や再生のさい、agrin,neuregulin,glial cell line-derived neurotrophic facor(GDNF)は終末軸索,終末シュワン細胞,アセチルコリン受容体(acetylcholine receptors,AChRs)部位、細胞外基質(基底膜を含む)間の細胞間相互作用に介在する。これら細胞間シグナル機構は終末シュワン細胞の増殖や移動、およびAChRsの凝集において重要な役割を果たす。我々の従来の研究により、末梢神経の圧挫損傷後、若年筋(4月齢)のNMJの再生過程ではAChR部位に形成異常がみられた。これらの所見に加えて老年筋(24月齢)では、終末シュワン細胞に損傷と遷延性の形成不全が見出された。本研究課題ではこれらの変化と細胞間シグナル機構との関連を若年および老年モデル間で比較することを目的とする。平成12年度には坐骨神経圧挫損傷後、ヒラメ筋切片を作成し、次のマーカー蛋白または標識抗体を用いて組織化学的に単染色または二重染色を行ない、共焦点レーザー顕微鏡下で観察した[シュワン細胞(S100),軸索(neurofilament,synaptophysin),AChRs(α-bungarotoxin),接着分子(L1,NCAM),細胞外物質(fibronectin,tenascin),neuregulinとその受容体(erB2,erB3,erB4),GDNF]。観察は術後3週(再生軸索がNMJに到達し筋線維と再結合を開始する)、4週(終末軸索の分枝が明らかになる)および8週(終末軸索の形成が進展する)の各神経再支配時期に行ない、標識パターンとNMJの変性および再生変化との関連について解析した。 1.細胞外物質、接着分子。fibronectinとtenascinにより標識される前終末および終末部位において顕著な形成不全がみられ、結合組織(シナプスの細胞外基質物質を含む)の異常による軸索伸展、誘導およびNMJの再生障害が示唆される。 2.neuregulin,erB2とGDNFはシナプスひだと終末シュワン細胞に分布する。若年モデルでは再生の途中で一過性に発現が強まるが老年モデルでは形成の遅れ、分布および形状の異常がみられる。加齢により終末シュワン細胞と後シナプス膜間の相互作用が障害されることが示唆される。
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