研究概要 |
神経筋接合部(neuromuscular junction, NMJ)の発育や再生の際、軸索,シュワン細胞,アセチルコリン受容体部位(acetylcholine receptor(AChR)部位)、細胞外基質は相互に接触を形成し、多様な細胞間作用を営む。この相互作用にはagrin, neuregulin, glical cell line-derived neurotrophic factor(GDNF)や後シナプス部位の構成成分(dystrophin(DYS)など)が関与する。末梢神経の圧挫損傷後、老年筋NMJの再神経支配過程において、シナプス主要構造に顕著な変性(とくにシュワン細胞とAChR部位)が起こり、神経線維と筋線維間の連結が障害され、再生が遅れる。本研究ではこれらの変化と細胞間シグナル物質の局在との関連を検索して来た。本年度の研究では後シナプス膜構成成分中、AChR部位の再生における役割が注目されるdystrophinの分布を解析した。観察は正常群と術後の4-12週、再生軸索がNMJに到達し、NMJの再生が進展する時期に行った。(1)正常群。若年正常(4月齢)および老齢正常(24月齢)筋のNMJではAChR部位はドーナッツ状またはクローバ状であり、AChRは均等に分布する。DYS陽性部位はAChR部位と同様であるが、AChR部位に比べてより広く分布し、染色性も低い。(2)術後4週。若年、老年の両モデルにおいて、AChR部位は退縮、過分節、構造の乱れを示す。DYS染色性は正常群より増しており、AChR部位の外側で最も強い。術後8週、12週。若年モデルでは、ほとんど全てのAChR部位のサイズや形状は正常に戻るが老齢モデルでは回復が遅れ、また持続性の形成不全を示す。若年モデルでは、AChRsが班状に欠如する部位のDYS染色性は残存するが、老齢モデルではDYS染色性はAChR部位の辺縁の外側のみに認められた。DYS染色性が非常に低いNMJも見られた。結論。老年期ではAChR部位の再生の遅れに伴って後シナプス膜成分の形成も障害される。この所見はシグナル機構の障害に関連すると考えられる。
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