研究概要 |
哺乳類四肢血管・神経の形成過程を,まず,ラット胚を用いて,血管色素注入法と神経細線維免疫染色の併用によって,血管・神経同時染色標本を作製して調べた.0.1日ごとの発生段階の変化を追って,肢芽形成期以前から,肢芽血管の基本的型が完成する時期まで,多くの親ラットから,膨大な数の胚を得た.この標本の一部を,三次元内部構造顕微鏡で薄切・再構築を試みた.その結果,最初血管注入に用いたベルリンブルー色素は,血管壁に沈着するので,全載標本の観察には適するが,連続断面観察法である三次元内部構造顕微鏡では観察が難しいことが分かり,蛍光色素で標識したマイクロビーズを溶かし込んだゲラチンを注入剤とし,また,神経も蛍光標識に換え,三次元内部顕微鏡に共焦点レザー光学系の装着を試みて,その試験データーとした.現在,その結果を解析中であるが,三次元内部顕微鏡への適用においては,まだ至適条件が得られていない.しかし,そのデータと,全載標本光顕観察および,血管樹脂鋳型腐蝕標本のSEM観察を総合した解析よって,ラット胚の前肢血管形成過程に関する重要な結果が得られている.それは,1)神経叢を貫通する腋窩動脈網と,神経叢を迂回する内側腋窩動脈幹との2重状態を経て,内側腋窩動脈幹が腋窩動脈になる;2)腋窩動脈網は,節間動脈外側枝間の縦吻合によるとの従来の定説とは異なり,1本の原始鎖骨下動脈(第8原始鎖骨下動脈:節間動脈とは無関係な血管)の肥厚と,第7神経の接近に伴う窓形成による;3)内側腋窩動脈幹は,従来の2つの相反する定説(第9節間動脈由来という説と,外側腋窩動脈幹からの二次的枝の吻合によるとの説)の両者とも異なり,原始鎖骨下動脈の一次枝である;4)従来,全く不明であった、鎖骨下静脈や腋窩静脈の形成過程が明らかとなった:などである. また,血管内皮に対するGFP遺伝子導入胚の共焦点レーザー顕微鏡による全載標本観察法と,内部構造顕微鏡観察法の導入も試み,その比較や,ゲラチン注入法などとの比較も行った.ゼブラフィッシュなどの小動物胚とは異なり,ラット胚レベルの大きさでの観察には問題が残った.
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