神経回路形成における神経成長端の標的器官認識機構をよりin vivoに近い環境下で検証するための方策として、実験対象にマウスのヒゲとその知覚神経結合系を選び、全胚培養法を用いた実験系を確立することが本研究の主題である。マウスのヒゲは胎齢11.5日以降に発生することから、主に胎齢11.5-12.5日の胎仔を選び、ラット全血清を用い、回転式胎児培養装置(池本理化製を若干改良)にて全胚培養を行った。培養期間は、開始後、4時間、6時間、24時間、48時間、である。この時期の全胚培養は、一般には培養可能と報告されているが、実際には容易ではなく、条件設定に相当の工夫を要した。培養胎仔の状態をモニターするために、頂臀長、体節数、心拍動数、卵黄嚢の血液循環、等、をチェックすることがまず重要である。 培養後、蛍光色素DiIを三叉神経節内に注入し神経線維を染め、線維の成長分布およびヒゲ原基との神経結合を、in vivoの状態と比較検討した。中でも、E11.5およびE12.5からそれぞれ6例を24時間培養したシリーズでは、全例において、in vivo同様の、神経分布、ヒゲ原基との結合形成、特徴的な終末像、が確認された。なお、胎仔の成長は幾分遅れ、48時間培養例では、神経線維の減少と退縮が見られた。以上、ヒゲ原基の発生時期に、安定した培養を可能にする期間は現在のところ24時間であるが、問題解決型の実験系として、全胚培養法が十分機能することが実証された。 次に、神経線維の成長端とヒゲ原基との結合をリアルタイムで捕らえる方法を蛍光ビーズあるいはトレーサーを使って試みているがまだ成功していない。今後、さらに装置を整え、ヒゲ原基の発生と神経誘導の過程を、分子レベルで解明するための手法を確立し、合わせて、全胚培養法が発生現象を解明するたに極めて有効であることを立証していきたい。
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